徒然なるままに生活しない為の備忘録

地方国公立大のM1。物理専攻。思いついたこととか、日々の日記とか。

【読書感想文】江戸川乱歩「白昼夢」

白昼夢

読み方:はくちゅうむ

白昼夢とは、昼間の目を覚ましている時にある種現実味感じながら、空想的・幻想的視覚心像にふけること、および、そのような視覚心像のこと。転じてこの世のものとはにわかに信じがたいような幻想的映像体験形容する表現

 

この小説は、ある男(主人公)が体験した恐ろしい、文字通り白昼夢のような出来事について書かれたわずか4,000字余の短編である。

 

晩春(5月であろうか?)の生ぬるい空気が漂っている大通りを歩いていた主人公は、前方から何やら人々の笑い声が聞こえてくるのに気づく。近づいていってみると、人だかりの中で、男が青ざめた顔をして何かを夢中で喋っているようなのだ。その話を訊いていくうちに、その男の凶行が明らかになっていき、最後にあるものを目撃し…というのがこの小説の流れである。

 

話の筋書きとしてはよくある話のように思える。しかし、巧みな情景描写によって、主人公の身に起こった出来事が果たして本当のことだったのか、はたまた幻だったのかを分からなくさせている。

 

冒頭で、主人公が歩いている大通りの描写が詳しくなされるのだが、蒸し暑い日の午後の中、民家が軒を並べ、子どもたちが童歌やら縄跳びやらで遊んでいる描写がいやにリアルで、脳内で容易にその様子がありありと浮かぶ。

 

そういった描写に対象的なのは、演説している男を取り囲む民衆についての描写である。彼らはただ、男の凶行についての話を笑うばかりで、いやに現実性がなく、ゾッとしたものを感じさせる。

 

こういった描写の緩急が、より一層この小説の雰囲気を幻想的なもの足らしめているのだろう。

 

そして極め付きが、ネタバレになってしまうので詳しい言及は避けるが、ラストで主人公が目撃するものの描写である。

 

「ワッ」っと脅かすだけが恐怖ではないという、日本然としたホラーが楽しめる。暇がある方も、そうでない方も、ぜひ読んでほしい作品である。

 

この「白昼夢」に限らず、江戸川乱歩の作品は著作権が失効しており、青空文庫で無料で読める様になっているのでぜひ読んでほしい。

 

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